目次
戦略とは「違いを作って、つなげる」
- 競争の中で、業界平均水準以上の利益を上げるには「違い」が必要
- 構成要素全てが因果論理としての「つながり」を持っていることが大切
したがってストーリーとしての競争戦略を筆者は推す。
戦略をストーリーとして語るとは、「個別の要素がなぜ齟齬なく連動し、全体としてなぜ事業を駆動するのか」を説明すること。
戦略は目標ではない
「いついつまでに営業利益を〇〇を出します!」は目標であって戦略ではない。
上記のような目標が全社会などで掲げられるが、それを実現するための戦略はきちんと伝えられていない場合がある。このような目標だけでは、実際にどのようにそれを達成するのかの道筋がわからない。したがって目標とは別に戦略を立てることが必要
また、組織編成や分析だけのものを語ったものも戦略ではない。
ストーリーを強調する5つの理由
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ビジネスモデルとは違い、打ち手(施策)の時間展開を含んだ因果論理になるから
ビジネスモデルでは、戦略の構成要素の空間的な配置形態に焦点を当てている
- ここ数年、戦略は組織の中で蔑ろにされている場合が多い傾向にある
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ストーリーとして戦略を組織で共有することは、戦略の実効性を大きく左右すれう
自分の仕事がストーリーのどこを担当しており、他の穂人々の仕事とどう噛み合って、成果とどう繋がっているかを知ることで、チームは全力コミットできるようになる
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ストーリーとしての戦略思考がとりわけ日本企業に重要な意味を持つ
- 日本企業は成熟した経営環境にある→個別の構成要素レベルでの競争優位性(違い)を確保するのが大変なので、ストーリーという競争優位性が有効
- 日本企業がポジショニング(できることしかやらない)より組織能力(能力を上げて差異を作る)に重点を置く傾向にある、組織能力にはストーリーが重要となる
- 日本企業は機能分化より価値分化の志向がある→ストーリーをより広く共有した方がvalueを出せる
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ストーリーという視点は戦略をつくる仕事を楽しくする
思わず周囲の人に話したくなる戦略を作るべき、そうでないと組織の実現も社会にdelightを届けることも達成できない
競争戦略の基本論理
競争戦略の対象範囲
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競争戦略(事業戦略)
- 特定の業界の中で、企業の特定の事業が他社とどのように向き合うか
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全社戦略
- 企業の事業ポートフォリオとして、どのような戦略を取っていくか
競争戦略の目的
長期にわたって持続可能な利益を出すこと
利益の源泉
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業界の競争構造
利益の出しやすい業界と、出しにくい業界が存在する
どうやって戦うかではなく、どこで戦うかが重要
参考:5フォース分析
- SP(ポジショニング)
- OC(組織能力)
- ストーリー
違いの作り方
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SP(ポジショニング)
- 他社と違ったことを行う
- 何をやらないかを決め、リソースを一点に集中させる
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OC(組織能力)
- 他社と違ったものを持つ
- 競争に勝つために、独自の強みを持つこと
- 他者が簡単には真似できず、容易に買うこともできないもの
グラフによる紹介
SPはベクトルの方向で、OCはベクトルの大きさを表す。
いかに競合と違いを生み出せるかが大事
SPで経営資源を決定して、OCでそれを伸ばしていく
静止画から動画へ
ただ、先ほど示したような「違い」は模倣可能で、確たる競争優位とはならない。
ここで大事なのが、「つながり」である。ここでは、一つの違いを、「静止画」とするとそれらをつなげて「動画」とすることがストーリーとしての競争戦略である。
戦略ストーリーの5C
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コンセプト
- ストーリーの起:本質的な顧客価値の定義
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構成要素
- ストーリーの承:競合他社との違い
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クリティカル・コア
- ストーリーの転:独自性と一貫性の源泉となる中核的な構成要素
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競争優位
- ストーリーの結:利益創出の最終的な論理
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一貫性
- ストーリーの評価基準:構成要素をつなぐ因果論理
コンセプトとは
そのプロダクトの「本質的な顧客価値の定義」
- 本当のところ、誰に何を売っているのか
- 最終的には短い言葉で表現される
- 本当のところ何であり、何ではないのかを凝縮して表出する言葉
筋の良いコンセプトを構想するには
- すべての構成要素をコンセプトを基点として考慮する。
- 誰もが好むようなコンセプトは、本質的には筋が良くない。
- 人間の本性を捉えることが必要であり、人間の本性は容易には変わらない。
- コンセプト設定段階では、ユーザーの声を積極的に取り入れない。多くの場合、ユーザーは自分たちが本当に必要としているものを明確に伝えることができないため、多くの要望を取り入れるとコンセプトが不完全になるリスクがある。
構成要素とは
一つ一つの「違い」のこと
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縦の繋がり
その違いが、競争優位につながっていること
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横の繋がり
その違い同士が、因果論理に即している
クリティカル・コアとは
戦略ストーリーの基盤となり、持続的な競争優位の源泉となる中核的な構成要素のこと。
- 他の様々な構成要素と同時に多くの繋がりを持っている
- 一見して非合理に見える
持続的な競争優位を保ちやすく、面白いストーリーの本質とは「部分的には非合理であるが、全体としては合理的なストーリー」
競争優位とは
利益創出の最終的な論理である。
利益創出の方法は以下で定義される。(WTP = 収益, C = コスト, P = 利益)
この式に基づき、利益創出の最終的な論理を考えると、2つしかない
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WTP優位
競合よりも価値の高いものを提供する
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コスト優位
競合よりもコストを低く提供する(価格ではなくコスト)
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(独占)
競合をなくすこと。ニッチに特化し、売れるだけ売らずに成長を目指さない。
一貫性とは
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ストーリーの強さ
- XがYをもたらす可能性の高さ、因果関係の蓋然性が高い
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ストーリーの太さ
- 構成要素間の繋がりの数の多さ
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ストーリーの長さ
- 時間軸でのストーリーの拡張性・発展性が高い
筋の良いストーリーのポイント
- 好循環または繰り返しがストーリーに含まれていること
ストーリーとしての競争戦略が長期的に持続可能な利益を出す理由
戦略ストーリーの「骨法10ヵ条」
1. エンディングから考える
「競争優位」と「コンセプト」から考える
理由はストーリーの優劣の基準が「一貫性」にあるから。
優れたコンセプトを構想するためには、ターゲット顧客をはっきりさせるだけでなく、そうした人々の心と体の「動き」を頭の中でよくよくイメージする。どのような状況と動機で、どのようにその製品やサービスとかかわり、どのように使用し、その結果としてどのように喜ぶのか、顧客の側で起こる一連のストーリーを頭の中でしつこくイメージする。
2. 「普通の人々」の本性を直視する
- 誰をどのように喜ばせるかを明確にする
- 誰に嫌われるかという視点も持つ
- 人間の本質的な本性は変わらない
3. 悲観主義で論理を埋める
- コンセプトを固めたら、コンセプトについては楽観主義であるべき
- ただ、構成要素をつなぐ因果論りに関しては悲観主義で論理武装する
4. 物事が起こる順序にこだわる
- 戦略ストーリーはビジネスモデルとは違い、時間軸に沿った因果論理になる
- 戦略は「練り上げる」というメンタルモデルで考える
5. 過去から未来を構想する
- 不確実性の高い未来に脳内リソースを割き過ぎない
- 従来の自社の戦略ストーリーの延長上に自然とつながる構想でなければ、競争の中で他社に打ち勝つのは容易ではない
6. 失敗を避けようとしない
- 失敗は避けられないので、それを避けるために立ち止まらない
- 実験的なアプローチを試みる
- 事前にストーリーをもち、それを組織で共有する
- ストーリーの作り手が、失敗を事前に定義しておく
7. 賢者の盲点をつく
- 賢者の盲点とは部分的には非合理だが全体としては合理的なストーリー
- 業界内外で広く共有されている常識を疑う
8. 競合他社に対してオープンに構える
- 競合他社に対して防御的な構えを取らない
- ストーリーが優れていれば模倣の脅威はそれほど大きくない
9. 抽象化で本質を掴む
- 他社の情報に関しては個別のファクトではなく、その背後の論理(why)を考える
- 戦略は特定の文脈に埋め込まれた特殊解であり、決定論や法則ではストーリーは作れない
- 戦略思考を豊かにするためには「歴史的背景」に注目するべき
- 抽象化と具体けを往復することで、物事の本質が見えてくる
10. 思わず人に話したくなるような話をする
- 優れたストーリーの条件は、そのストーリーを話している本人がワクワクでしていること
- いやいや考える目標設定では良いストーリーは生まれない
- いやいや考えている場合にはストーリーが共有されていないかストーリーの立て方を知らない
- 非同期でのストーリーの共有では絶対に伝わらないし、理解されない
- ストーリーを語る際にはface to faceでリーダーが全身全霊を込めて、納得がいくまで何度でも繰り返し説明をする必要があり、ここにかかる手間や工数は絶対に惜しんではいけない
一番大切なこと
ストーリーにとって一番大切なこと、それはストーリーの根底に抜き差しならない切実なものがあるということ。ストーリーが面白いだけではなく、大きな社会に対する「志」や「信念」がある。それをちゃんと持ち続けること。
切実なものとは、個人の欲ではない。個人の欲ではなく、社会に対して何がしたいかを考える。ただ大元は欲でもいい。それを突き詰めていくと自然と「世のため人のため」の目標になる。