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数学文章作法 基礎編

目次

第1章 読者

文書を書くうえで最も大切なこと、それは読者のことを考えることである。

  • 読者の知識
    • 読者の知識は文書を読んでいる上でも移り変わるものなので「順序」を意識する
    • 例えば、読者が「ということは,もしかしたらこんな命題が成り立つのではないか」と思ったタイミングでその命題を提示し,読者が「抽象的でわかりにくいから,簡単な例がほしいな」と思ったタイミングで例を提示する。
  • 読者の意欲
    • 抽象的な話が続いたら、具体例を出す
    • 具体的な話が続いたら、まとめを出す
    • 言葉の説明が続いたら、図・グラフ・表を出す
  • 読者の目的
    • 読者の目的に即した文書を書く

第2章 基本

形式を揃える
  • タイトル・著者名・見出し・目次・概要・本文・図表・例・索引・参考文献などの表記を意識する
  • 文字の使い方・語句の選び方・漢字とかなの使い分けにも注意しましょう.
文章の構造を意識する

文章→章→節→段落→文→語句のように文章は分解できる。

語句
  • 語句の原則
    • 一つの語句には一つの意味を与え、一つの語句が文章のあちこちで違う意味を表さない
    • 同じ意味を表すのに複数の語句を使わない
  • 漢字とカナ
    • 接続詞・副詞・指示語は,ひらがなで書いた方が読みやすくなる
    • 「とき・こと・もの」も形式的に表現するときは、ひらがなを使う
  • アラビア数字と漢数字
    • 基本的に n で置き換えられるものはアラビア数字を使う
    • 一、二、三などに限って使う表現や慣用句の場合には漢数字を使う
  • 記号
    • カギカッコ(「」)は短い引用や発言に使います.二重カギカッコ(『』)は書名に使う
    • 列挙の順序を入れ替えてもかまわないときには,列挙の区切りにナカグロ(・)を使います.順序を入れ替えないときには,読点(、)やカンマ(,)を使う
  • 書き言葉と話し言葉
    • 話し言葉→書き言葉
      • だって→なぜなら
      • じゃないか→ではないか
      • けど・だけど→しかし・だが
      • なので→よって・ゆえに
  • 文の役割を明確にする
    • 肯定、否定、命令、推測
  • 文は短くする
    文を短くする例
  • 文は明確に
    • ここで主張したいことは何かを自問する
  • 「だ・である」と「です・ます」
    • 一つの文章では,文末を「だ・である」(常体)と「です・ます」(敬体)のどちらかに統一します.説明文は「だ・である」で書くのが普通です.特に論文は「だ・である」になります.読者に親しく話しかける文章では,「です・ます」を使います.
  • 場合分けはMECEに
    • 漏れなくダブりなく
  • 事実と意見を意識する
    • 事実と意見を混ぜて書かない
段落
  • 段落の役割
    • 一つの段落は一つのまとまった主張を行うように書く。
  • 段落は明確に
    • 段落の最初の文は段落の内容をまとめた文(トピックセンテンス)を書く
節, 章
  • 節,章の役割
    • 節,章,……という《部品》は,段落などと同様に、それぞれのレベルごとのまとまった主張を行うものである

第3章 順序と階層

  • 順序:読みやすく並べること
  • 階層:読みやすくまとめること
順序
  • 時間:歴史をなぞる
  • 作業:マニュアルや手順書
  • 空間:画面仕様書
  • 大きさ:化学の状態変化など
  • 既知から未知へ
  • 具体から抽象へ
    • パラレリズム(特殊な場合と一般の場合を並行して書くこと)を使うと理解が捗る
      • 特殊:まず,5人から1人を選ぶ場合の数は5通りあります.
      • 一般:まず,N人から1人を選ぶ場合の数はN通りあります.
  • 定義と使用
    • 新しい用語を使う前にその用語の定義を行う
階層

長くて複雑な内容の文章に対して、階層を作ることによって、どこに何が書いてあるかがわかりやすくして読みやすさを向上できる。

読みやすい階層を作るには

  • 大きい塊はブレークダウンする
  • 漏れなくダブりなく
  • 同じ粒度の要素を集めてグループを作る

第4章 数式と命題

読者を混乱させない
  • 二重否定を避ける
  • 同じ概念には同じ用語を使う
  • 異なる概念には異なる用語を使う
  • 異なる概念には異なる表記を使う
  • 呼応の副詞を正しく利用する
読者に手がかりを与える(メタ情報)
  • 文字にはメタ情報をつける
    • e.g. P, 曲線C
  • 一般的な文字の使い方の例

第5章 例

読者は例で納得する。抽象的な説明が続くと読者は「具体的にはどういうこと?」と疑問に思い、具体的な例が示されて「ああ、そういうことか」と納得する。したがって説明文に例を書くことは重要である。

  • 例には典型的な例を使う
    • 典型的な例を提示した後なら、極端な例を追加してみてもいい
      • e.g. 1,2,3,...のような,1以上の整数を自然数と呼びます.1以上の整数ですから,3251837のようにとても大きな数も自然数です.
    • 当てはまる例と当てはまらない例を挙げると理解が捗る
      • e.g. 1,2,3,...のような,1以上の整数を自然数と呼びます.0や-1は自然数ではありません.

例の働き

例は、概念を読者の心に描く。例を足すことによってその概念の代表点を知ること概形を少しずつ理解していく。また、当てはまらない例を知ることによってその概形のコントラストを上げて解像度を高めることができる。

例の提示時の理解の進み具合のメンタルモデル

例を作る際の心がけ

  • 知識をひけらかさない
    • その例は本当に理解を助ける最高の例か?
  • 自分の理解を疑う
    • 良い例が浮かばない場合は理解度が低い可能性が高い

第6章 問いと答え

問いと答えは呼応する

読者に問いを与えたならば、必ずそれに対する答えを言及する必要がある。また、答えは必要に先延ばししてはいけない。

問いかけ型のタイトルは読者を惹きつけるのに有用である。ただ、そのタイトルをつけた以上はその問いに文章内で答えなければいけない。

どう問うか
  • 否定形の疑問は一瞬思考を困らせるので避ける
    • e.g. 「x^2≥0を満たさない実数は存在するのでしょうか?」
  • 明確かつシンプルに混乱が生まれないように問う
何を、いつ問うか
  • 読者の現在の知識を問う
    • 説明の最初に、これから説明する内容に読者の注意を向け、背景となる知識を思い出してもらうために問う
  • 読者の理解を問う
    • 「ここまで読んできた時点で,あなたは~について理解したことになるはずです」というメッセージを込めて問う
  • 重要な点を問う
    • 絶対に理解してほしいこと、記憶してほしいこと、把握してほしいことを問う
  • 当たり前のことを問う
    • 読者に安心感を持たせるために問う

第7章 目次と索引

目次

人が目次を使う目的

  • アウトラインを知るため
    • 読者の知りたい下記の3点を満たす目次を作る
      • どういう題材?
      • どういう順序?
      • どのくらいの粒度?
  • 目的の場所にジャンプするため
    • 必ずしも最初から読むのではなく、自分の好きなところから読みたがる
    • そのため見出しで何が書いてるかわかりやすくする

良い目次・見出し

  • 独立して読める見出し
  • 粒度を揃える
  • 形式を揃える
索引

索引とは、文章中に含まれる重要な語句を集めた一覧で、通常は文章の最後に置く。

  • どの語句を索引項目として選ぶか
    • 読者が調べる可能性がある語句
    • 重要な語句、専門用語、特殊記号、概念、固有名詞
  • どこを参照ページとして選ぶか
    • その索引項目を読者が調べるときに開いてもらいたいページ

第8章 たった一つの伝えたいこと

本書で最終的に伝えたいことは「読者のことを考える」ことである。