第1章 読者の迷い
読者は文章を読むとき、そこに書かれている言葉を元にして心の中に概念を構築する。迷いづらい文章は読者がスムーズに概念を積み木のように重ねていける文章である。
読者は文章を読むとき、そこに書かれている言葉を元にして文章の流れを追う。迷いづらい文章は読者が迷わず歩ける一本道のように構成されている。
読者が迷うケース
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似ている語句が登場したとき
- これは同じ語句かそれとも異なる意味を持つ語句かで迷う
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長い文があるとき
- 文全体で何を伝えたいのかが分からず迷う
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言葉の不足があるとき
- 不足を補うパターンが複数あり迷う
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無駄な言葉でがあるとき
- 不必要な情報が多くあり迷う
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指示語が何を指すか不明確なとき
- 指示語を補うパターンが複数あり迷う
第2章 推敲の基本
推敲の基本
- 自分が書いた文章を読み返して理解する
- 書きたかったこととのずれを探す
- ずれを少なくするように書き直す
- 以上を何度も繰り返す
- 著者としての自覚を持つ
読み返して理解する
- 著者の帽子を捨て、読者の帽子を被り文章を読み返す
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読み返すときは気になったところにマークをつける
- 読みにくい
- 語句
- 説明不足
- 長すぎる
- 要確認
- 間違いや気になってもすぐには修正せずに最後まで読み通す
ずれを探す
読み返して気になった点にマークをつけたら、次に「書きたかった」ことと「現在の文章」のずれを探す。
- 書きたかったことは全て書かれているか
- 主張の方向はずれていないか
- 論理的に破綻していないか
- 読後の印象は期待した通りか
書き直す
書き直すとは、不要なものを削り、必要なものを加筆する作業。
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削除するべき項目
- 意味のわからない言葉
- この文章に不必要な言葉
- 無意味に繰り返した言葉
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主張をぼかす言葉
- e.g. など、ような、ようになる文言は文章に曖昧さを感じる
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加筆時のポイント
前提として下記の問いかけに答えられるようにしてから加筆する。
- (要点)ここで言いたいことは要するに何か
- (理由)それはなぜか
- (例)たとえばどんなことか
- (反論)読者の心に浮かぶ反論はあるか
- (再反論)それに対しての再反論はあるか
基本的には読者が疑問に思いそうだが、まだ文章化されていないことを加筆する。
繰り返す
推敲は一度やれば終わりではなく繰り返し行う必要がある。文章を読み返す際「観点を定めて読む」ことが効果的である。また文章を読み返す時間や時刻、場所を変えるのも効果的である。
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観点を変える
- 誤字脱字
- 固有名詞
- 全体の論旨
- 図や表
- 索引項目に漏れがないか
- 時間を置く
- 時刻を変える
- 場所を変える
第3章 語句
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語句の吟味
- その語句は自分の言いたいことを最も適切に表す語句か吟味する
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専門用語
- 専門用語は一般的な語句と同じでも意味が異なる場合がある。またその分野に精通した人ではないと専門用語を理解できないことを心に留めておく。
- したがって専門用語は必要に応じて説明文内で定義する必要がある。
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定義する際に気を付けるポイント
- 本当に定義をする必要はあるか
- 定義文が明確になっているか
- 定義に循環はないか(定義の中に定義したい言葉が入っていないか)
- 定義と性質を区別する
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造語
- 書き表したい概念を的確に表現する語句がない場合は造語を検討する
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造語を使っても良い条件
- 既存の語句では短く表せない
- 重要な意味を持ち頻繁に登場する
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便利な語句
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「それぞれ」
- 対応関係を明確にするために用いる
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「〜の一種」
- 「言及しているものがすべてではない」ことを明確にする
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「」
- 特定の語句を強調することができる
- 修飾語が多く付いた語句を「一つの語句」として読んでもらう
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「それぞれ」
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注意が必要な語句
- 「基本的には」
- 「ある意味では」
- 「など」
- 「同じ」
- 「本当に」
- 定性的表現と定量的表現
- 指示語
- 「と」
第4章 文の推敲
短くする
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復文に注意する
- 🙅「私はカメラを抱えたまま寄ってきたリスにクルミをあげた。」
- 🙆「寄ってきたリスに、私はカメラを抱えたままクルミをあげた。」
- 「の」「こと」が2個以上ある場合は減らせるか検討する
- 「することができる」→「できる」に変換する
明確にする
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対応を明確にする
- 🙅「Table1とTable2に示した加算と乗算の表を見てください」
- 🙆「加算の表(Table1)と乗算の表(Table2)を見てください」
- 主語を明確にする
言外の意味
「言外の意味」とは「文字としては書かれていないが、自然と心に浮かんで来る意味」です。
そのような言外の意味に対して解決を与えるような文章は読者にとって違和感がない文章になる。
- ある場合について言及した場合はそれ以外の場合に対しても言及する
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AはBをします
- Aが既知の場合に使う
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AがBをします
- Bが既知の場合に使う
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Aの方が良い
- 何と比べてAの方が良いのか言及する
二重否定に注意する
- 二重否定を見つけたら肯定文に変えられないか検討する
語順を変える
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「とても」の位置
- とてもなど度合いが大きいことを表現するものはその対象の語句の直前に配置する
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「だけ」の位置
- 「だけ」が限定している対象を明確にする
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「すべて」の位置
- すべてが修飾するべき語句を修飾できているか考える
第5章 文章全体のバランス
バランスが取れている文章とは、必要なものが過不足なく書かれている文章のこと。
分量のバランス
必要な要素に対して十分な分量が書かれており、また不必要な要素が書かれていないこと。
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欠けた要素がないか確認する
- 主張の理由
- 抽象的な記述に対する具体例
- 説明の流れの飛躍
- 列挙するべき要素を列挙したか
- 必要な証明や、証明の載った参考文献
- 全体のまとめ
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長さは適切な分量か検討する
重要度に応じた分量で説明をする
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強調している箇所は適切か
協調している箇所は適切であるか、多すぎないかを確認する
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誤読への耐性はあるか
読者は誤読をするものという前提を心に留めて、文章が複雑な場合や、きちんと理解して欲しいところ、話題の転換点などにはあえて冗長性を入れて、誤読への耐性を付与することを検討する。
品質のバランス
荒削りな箇所と入念に遂行された箇所がばらついていないこと。
- まんべんなく読む(ローラー作戦)
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観点を変えて繰り返して読む(フェーズ作戦)
読む観点の例
- 誤字脱字
- 用語
- 図や表
- 主張の真偽
- 事実関係
- 論理展開
- 見出し
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修正箇所を念入りに読む(メリハリ作戦)
大量の修正を行なった箇所は周りに比べて品質が低くなっている可能性が高い。したがってこのような箇所を集中的に精査する。
第6章 レビュー
レビューとは信頼できる他人に読んでもらって文章を改善すること
レビューとは何か
- レビュワーに文章を読んでもらい
- レビュワーからFB(フィードバック)を受け取り
- そのFBを参考にして文章を改善すること
レビューをもらう意味
自分一人で行える改善には限界があるから。著書は自分が書いた内容をよく理解しているため、その文章を初めて読む読者の気持ちになるのが難しい。また、著者の知識量には限界があり、文章中に間違いが混在している可能性がある。
レビューの目的
- 文章が想定読者にマッチしているか
- 文章の内容は正確か
- 文章は読みやすいか
レビューの依頼
レビュワーの選択
以下3種類のレビュワーがいると望ましい。レビューの目的と対応している。
- 読者に近い人
- 専門家
- 文章に敏感な人
レビュー観点を明示する
- 誤字脱字に集中して読んでほしい
- 事実関係の誤りを中心に読んでほしい
- 品質が気になる第○章を重点的に読んでほしい
- 難易度に注意しつつ読んでほしい
ただ制限を持たせすぎるのも良くないので、「気づいたことは何でも教えてほしい」と伝えておくのも重要。
レビューの実施
もらったフィードバックを分類する
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誤りの指摘
- 本当に誤りなのかを判断して、その指摘を反映するか検討する
- 指摘箇所以外にも同様の誤りがないか確認する
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読みにくい部分の指摘
- 本当に読みにくいかを判断する
- どうしたら読みやすくなるか検討する
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疑問
- コミュニケーションをとって解決する
- 必要があれば疑問を生まないように加筆する
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補足情報
- 加筆するか検討する
FBの反映
FBの反映を行うときは以下のことを心がける
- 理性的に受け取る
- 反映は文章そのものにして言い訳しない
- 反映は著者の責任で
レビューの心がけ
- レビューは共同執筆ではない
- 信頼関係が大切、レビュワーにリスペクトと感謝をする
- 謙虚な態度を忘れない
- 失敗や恥を恐れずに読んでもらう
第7章 推敲のコツ
時間の管理
推敲はやろうと思えばいくらでも出来てしまうので時間を管理する意識を持つ
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推敲可能な総時間を管理する
- それがまとまった時間か細切れの時間かにも着目する
- まとまった時間:大局的な作業
- 細切れの時間:局所的な作業
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締切を必ず守る
- 本来の締め切り前に自分用の締切を設けておく
効率的な推敲
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用語集を作る
- どのような用語を使うかを迷うので作成するとより効率的に推敲できる
- レビュワーや読書にも役立つ
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文章の癖を見つける
- 誤ってよく使う表現などを見つけておく
- 要注意語句の一覧としてまとめておくと良い
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ファイルを管理する
- バックアップをとる
- バージョン管理できないか検討する
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作業ログをとる
- 過去の経験を現在に活かして、現在の経験を未来に活かすためのログ
多様な推敲
- 声に出して読む
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画面と紙を切り替えて読む
- 紙の方がより読者の気持ちに切り替えやすくなる
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作業場所を変える
- 思いがけない発想や誤りに気づいたり、違った視点で読むことができる
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疲れているときに読む
- 疲れていると分かりにくい文章は頭に入ってこないからあえて疲れているときに読みやすい文章かチェックする
第8章 推敲を終えるとき
推敲を終えたい心理
推敲は大変労力がかかる作業なので早く終わらせたい心理に陥る
推敲を終わらせたいときは以下の点を確認する
- 文章の品質は求められている品質に届いているか
- その内容に応じた読みやすさになっているか
- 最後に全体を通読したか
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いつでも修正できると思っているか
- 誤りを修正しない限り、誤りを含んだ文章が読まれることを認識する
推敲を終えたくない心理
一方、文章を完成させるのが怖いというような後ろ向きの気持ちから推敲を終わらせたくないという心理に陥ることもある
品質の低い文章を読者に届けるのは良くないことだが、品質が十分に高い文章を読者に届けないのはもっと良くないこと
推敲を終えるタイミング
- 読む時の「引っ掛かり」がなくなってきたとき
- 「修正してから戻す」ことが多くなってきたとき
- 加筆したい項目がレーマからずれていることが多くなってきたとき